会社でお昼寝してたら降って湧いた小話を書きました

幼い少年は、空を飛ぶことを願った。
その少年が語る夢を聞いた周囲の人間は、できっこない、と笑った。
だが少年は、周囲の人間の言うことに納得ができなかった。世界には実際に空を飛ぶ生き物がいるというのに、なぜ人間ができないというのか。
彼は空を飛ぶための努力を始めた。速度が重要ではないのかと考え、速く走れるようになった。はばたくための力が必要だと考え、筋力をつけた。

終ぞ、彼の体が空を飛ぶことはなかった。


その少年が、人間はその身一つで空を飛べないということを理解してから十数年が経った。
彼は再び夢を語った。身一つで飛べないのであれば、飛行機を作って飛んでやる、と。
彼の語る夢を聞き、周囲の人間は再び笑った。
当然、青年がその程度で諦めるわけがなかった。
彼は数々の模型から理想とする飛行機の形状を探し出し、その形状にできる限り寄せられるよう、木製の飛行機を作り上げた。駆動にはかつて友人と遊んでいたミニ四駆のモーターを使用した。人が乗れるサイズには程遠いが、彼の飛行機第1号が完成した。

その飛行機は、飛ばなかった。


一号機が墜落して数十年が経った。
かつての青年は二人の子供を育てる父親となっていた。
結局、彼は航空系の職に就くこともなく、家電メーカーへと就職した。今は新商品の開発部門に所属している。
今でも時々、彼は夢を語る。周囲の反応は様々だ。実現したい、という声もあれば、どうせできない、需要がない、という声もある。
だがいつだって、彼には周囲の言葉など関係ないのだ。今までもそうしてきたように、彼の中にある熱量を形にしていく。かつてと変わったことといえば、その形が成功と評されることが増えたぐらいだろうか。
「おとうさん」
日曜の昼下がり、彼の息子がそばに来てこう言った。
「忍者みたいに水の上走るのって、どうやるのかな」
彼は笑った。
「やってみようか」

彼の書斎の机の上には、かつての飛ぶことの出来なかった熱量の塊が今も鎮座している。